家のどこにいても太陽の光と緑をふんだんに感じられる中庭は、プライバシー保護と開放感が両立できることから、近年特に人気が高まっています。
しかし間取りの問題など、中庭のある住宅に難しさを感じ、敬遠している方も多いのではないでしょうか?
実際に、満足度の高い「中庭のある家」にはいくつかポイントがあります。そこで今回は、メリット・デメリットをふまえた中庭の住宅プランについて考えていきます。
中庭のある家のメリット
人も家も喜ぶ開放感
中庭のメリットとして第一に挙げたいのが、内部空間にもたらす物理的・心理的な開放感です。
通常、外部からの視線を避けられる住宅を作ると、どうしても室内は窓が少なく暗くなりがちになります。
そこで、家族だけのプライベートな中庭を配置することで、中庭に面して思い切り開口部を設けることが可能となり、室内には光や風の沢山通る空間が生まれます。
そのため、実は狭小地にこそ中庭がおすすめです。小さくても光と風の抜け道を作るだけで、建て込んだ敷地環境でも奥まった部屋に光と風を呼び込めます。
明るく空気の循環する空間は、人にとっても建物にとっても長寿命化につながり、人の心理面では前向きで活発な気持ちにさせてくれると言われています。
屋外も「部屋」として使える
中庭をデッキのような仕様にすると、アウトドアリビングやバーベキューなど、家族や友人と屋外空間を活かした様々な活動ができるようになります。
LDKと一続きに計画することで、室内でくつろぐ人と屋外で過ごす人、禁煙者と喫煙者など、通常なら分けて活動する人同士の交流が生まれ、多くのコミュニケーションが行われる空間になるのです。
また、中庭に高さの様々な植栽をほどこすと室内の「ディスプレイコーナー」のようになり、床座・椅子への着座・立位・・・どの姿勢で過ごしていても、部屋からはいつも緑を感じることができるでしょう。
中庭越しに対面側の様子がわかる
中庭を挟んだ向かい側の部屋については、室内様子が伺えるメリットがあります。
同時にプライバシーの問題も生じますので、メリットと取るかデメリットと取るか分かれるところです。ただ、ブラインドや障子、植栽などを上手に活用すれば制御する事も可能です。
費用は掛かりますが、ちょっとした半地下を設けるなどして床にレベル差をつける手もあります。したり室内のどこにいてもお互いの気配が感じられる家にしたい、という場合には中庭の配置を後で述べる「コの字型」にするなど、設計の段階で工夫する必要があるでしょう。
子どもやペットにも安心
道路や隣の敷地に面していない中庭は、安全面においてもメリットがあります。
例えば小さな子どものプライベートパークとして中庭を使えば、親は家事をしながら子どもの外遊びを見守れるようになるので安心です。
安全にのびのびと遊べるという点では、ペットにとっても同じことが言えるでしょう。
中庭なら放しておいても安心ですし、室内飼いならではのストレスの軽減効果も期待できます。
デザイン性の高い住宅になる
緑いっぱいの中庭と室内が一続きとなったプランなら、カフェのテラス席のような非日常感のあるリラックス空間を演出できるでしょう。
周囲から見えず、かつ室内とゆるやかに区切った中庭だからこそ、ハンモックやテントを設置したり、部屋内では目立ちすぎてしまうカラフルなオブジェを置いたりと、デザイン面で色々と冒険してみるのも良いかもしれません。
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デメリット
間取りに制約ができる
住宅の中央に庭を入れ込むので、多くのケースでは向かい側の部屋に行くために中庭を回り込む必要があり、動線が長くなってしまいます。
中庭を横断して部屋を行き来できる様に、例えばデッキを設けるなど、完璧では無くともサッとショートカットできる工夫などを検討してみても良いでしょう。
建築費用が高くなる
間取りが複雑化することは、建物の形そのものが複雑化すること。
家の強度確保に工夫が必要になったり、外壁や窓が増え、外構工事が発生します。
また雨水排水経路を専用に確保する必要性も出たりと、何かと費用がかかります。
「中庭」は、植栽だけのものからアウトドアリビングのように造り込んだテラスまで様々。
予算をふまえ、どの程度の中庭がバランス良いか相談しながら検討を重ねましょう。
メンテナンスが大変
雨風のあたる屋外空間ですから、植栽の手入れ、枯葉などの掃除、中庭に面した窓の掃除など、通常の家よりもメンテナンスを要する部分が増えます。
10年程度して行う大きなメンテナンスでは塗装や防水、排水設備のケアが発生します。そんなとき、特に完全に囲い込まれた中庭の場合は足場の搬入や養生その他、普通の工事よりも考慮が必要な事が出てきます。可能でしたらそんな事も頭の隅におきながら計画を行うと良いでしょう。
居住面積が狭くなる
例えば同じ30坪の住宅でも、外周壁で囲われた全体ボリュームは中庭型のほうが大きくなります。
ということは、敷地規模に制約がある都市型住宅においてはプランニングが厳しくなると言えます。
中庭を確保したい場合は、廊下など通過動線を出来るだけ無くす効率的なプランを検討したり、囲い方の程度(ロの字型よりコの字型、コの字型よりL字型)を柔軟に考えてみるなどしてみてはいかがでしょうか。
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間取りの考え方
配置方法
中庭の配置方法は以下の2つのパターンが考えられます。
ロの字型
中庭を中央にして、「ロ」の字に家が囲むプランです。
中庭が外部から完全に分断され、プライベート空間として使うことができます。
反面、建物全体のボリュームが大きくなり、豪雨も考慮した排水処理の検討が必要となります。
小さな子どもやペットのいる家族、広い敷地に計画する場合におすすめです。
コの字型
中庭のいずれか1面が抜けた形状で、家全体が中庭を「コ」の字に囲みます。
必要な居住スペースとのバランスを考慮したり、敷地のいずれかの方向に借景が見込める場合などに適した配置です。抜けた1面にスリット壁を設ければ、プライバシーと通風の両立も可能な点は、コの字ならではのメリットですが、ロの字に比べて少し構造への配慮が増すケースもあります。
見せたくない空間は「中庭の向こう側」に
メリットの項目でも紹介しましたが、中庭を挟んだ部屋同士は何となく様子がうかがえる関係にあります。
その特性を利用して、二世帯住宅やSOHO(自宅兼オフィス)のプランに中庭を採用する方法があります。
程よい距離感を保ちつつ、お互いの空間を自由に行き来することができます。
高さ方向の効果を活用する
中庭を介した高さ方向の視覚効果も考えたプランは、程よくお互いが見守れる関係を作りたい場合に有効です。
例えばリビングと子ども部屋、親世帯と子世帯など。
スキップフロアでなくとも、2階から1階の「斜め下」、1階から2階の「斜め上」が程よく見えるような家になり、中庭という緩衝空間の特性が大きく活かせます。
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まとめ
以下のまとめを参考に、中庭を取り入れてみてはいかがでしょうか?
狭小地にこそ中庭を
プライバシーを保ちつつ光と風をふんだんに取り込む中庭は、開放感の不足しがちな狭小地の住宅にこそ有効。
面積上、部屋の確保や動線計画が難航するようであれば「コの字型」や「L字型に囲い壁」なども検討してみてはいかがでしょうか。
メンテナンスと予算からプランを検討
開放感を生み出すプライベート空間であり、屋内外をゆるやかにつなぐ中庭には、メリットが沢山あることがわかりました。
しかし、植栽や建材、設備のメンテナンスを面倒に感じる方や、想定予算によってはハードルが高く感じられるかもしれません。
ですが落葉しない樹木や強度の高いデッキ材などを採用して長く利用する事、囲い方の簡略化など、ハードルを低く抑えるポイントはいくつかあります。家の手入れにかけられるエネルギーや予算をもとに、建築会社に自分達に合った中庭の仕様を相談してみると良いでしょう。
中庭で「したいこと」を明確にする
住宅を計画する上で、最も重要なのは「その家で、どのような暮らしがしたいか」ということに尽きます。
一般的に暮らしやすいとされている人気の間取りでも、その家族の活動や趣味嗜好からすると、必ずしも快適とは言えないかもしれません。
中庭に関しても、「屋外空間を活用した多様なコミュニケーションがとりたい」「家族をほどよい距離感で見守り寄り添いたい」など、目的を家族間で明確にすると、プランや予算組みがスムーズになり、自分達だけの理想の「中庭のある家」を完成させることができるでしょう。