家族の団欒を表現する「お茶の間」という言葉があります。
子供世代や親世代、さらには祖父母の世代まで人気がある有名人のことを、少し古い言葉ですが「お茶の間で大人気」などと表現したりすることもありますね。庶民的な言葉ですが、しみじみとした温もりがあり、世代を超えて家族が一緒に過ごしている雰囲気が伝わります。
実際に、昭和の時代にはそのようなご家庭が普通だったようですが、現代では和室でちゃぶ台を囲んでテレビを見るという習慣は少なくなってきているようです。
お茶の間は、その言葉の通り、もともとお茶室として使われていたスペースに、お客さんを呼んだり、家族で団欒したりするようになったことから使われだしたといわれています。つまり、現代で言うところのリビングです。
今ではほとんどのご家庭が、お客さんを通してご飯を食べたり、家族でテレビを見たりするスペースはフローリングの床に椅子とテーブル、ソファーなどを置いた「洋風リビング」が一般的ですが、和風の畳敷きである「お茶の間リビング」も、様々な魅力があります。
この記事では、あえてリビングを和室にするメリットや、注意点をお伝えします。リビングを和室にしようか悩んでいる方の参考になれば幸いです。
1 和室リビングの歴史
元々、日本では戦前から6畳程度のスペースに家族が集まり、食事をしたりお茶を飲んだりといった団欒をするお茶の間スペースが存在していました。
夜になれば、ちゃぶ台を片付けてそこに布団を敷き眠るという、居間兼寝室として非常にコンパクトに使われていました。
戦後、暮らしが豊かになると居間と寝室が分離されるようになりました。それでも、高度経済成長期が終わるまではほとんどの家庭が畳敷きの和風の居間と寝室を持っていました。
しかし、それが現代までの間に家庭の居間がリビングと呼ばれる様になり、畳敷きがフローリングに変わりました。そして新築の家のほとんどにおいて、ご飯を食べたりテレビを見たりお客さんを通したりするスペースは、畳の間ではなく洋風リビングになったのです。
現代において畳敷きの和室をリビングとして使用することは非常に少ない状態となってしまいました。
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2 リビングを和室にするメリット
上記のように和室をリビングとして使用することはとても少なくなりましたが、それでも多くのメリットがあるので実際に検討している方もいらっしゃいます。
2−1 床の柔軟性と面としてフラットに活用できる柔軟性
最も大きなメリットは、フラットな過ごし方ができる床である、ということです。
和室にした場合、基本的に椅子やソファーは使わず座する事となります。これが、ゴロンとそのまま横になることができる和室ならではの特徴です。
冬には真ん中にコタツを置いて、家族で寄り集まりながら思い思いに過ごしたり、場所を問わず横になりながらテレビを見たりと、自由に過ごすのが心地よかったりします。
しかし、洋風のリビングの場合そうはいきません。そもそも床がフローリングなので、横になると固くて冷たいですし、痛いです。
カーペットを敷いたとしても、畳にそのまま座したり座布団を置いて使った場合のあの感覚にはどうも敵いません。何よりも洋風のリビングの床で寝転がっていては、なんとも落ち着きません。畳敷きのお茶の間だからこそ思い思いにゴロンと横になって過ごすという、日本人特有の過ごし方が可能なのです。
2−2 スペースを有効活用できる
洋風のリビングの場合、ソファーやテーブル、椅子など大型家具を配置する必要があります。一つ一つに重量もあるため、あまりスイスイと動かす様なことはしません。
しかし、和室の場合は座卓や座布団など軽量なものばかりですので、簡単に持ち運ぶことが可能。
旅館でよくある様に、寝る前にそれらをちょいと片付けて布団を敷くことも簡単ですので、スペースを有効活用できます。
家を建てる際、建坪に余裕がない方はリビングを和室にすることによって、ひと部屋分くらいの余裕を生み出すことだって出来てしまいます。
あるいは宿泊を伴う来客が多い方は、畳敷きのスペースがあれば臨時の客用寝室として使用することもできます。
リビングに布団を敷いて「ここで寝てください」という事も出来ますが、何となく抵抗感がありませんか?
その点和室は出ている座卓や諸々小物を片付けて布団を敷けば違和感がなくなるから不思議です。
2−3 畳の魅力
畳に使用されている「い草」は、「天然のエアコン」とも呼ばれる素材で、湿度の高い日には水分を吸収し、湿度の低いときは水分を放出するという調湿作用を持っています。そして、表面はサラッとしているので蒸し暑い日に畳に横になると体に馴染みも良く、心地よい肌触りを感じることができます。
またい草から出る畳特有の香りには「バニリン」や「フィトン」といった物質が含まれており、森林浴と同じ効果があります。落ち着いて集中力をアップさせたい時などは、畳に座って作業をするのがおすすめです。
さらに、クッション性にも優れているため、小さいお子様が遊んだり走り回ったりした時に転んでしまっても、怪我をしにくいというメリットがあります。お子様に関係することでいえば、畳には音を吸収する特徴があるので、お子様が騒いだ時にも、防音効果が期待できます。
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3 すべて畳に抵抗があるなら一部分だけ畳にしよう
畳の良さは分かるけど、すべてを畳にするというのは…。
そんな方にはフローリング敷きのリビングの一角に畳の間を配置する方法があります。
リビング全体を和室にする場合と違い、ソファーなどを置いた一般的な洋風リビングスペースの脇に、小さめの畳の間を設けるというものです。
仕切りを取り付ける方法もありますし、フローリングの一部に畳を埋め込み、段差を作らないフラットな構造も可能です。片隅ではなく、リビングルームの中央を畳の床にするる方もおられます。
最初は違和感があるかもしれませんが、上記で説明した様々な和室のメリットの恩恵を受けることができます。
リビングが1階であると仮定すると、畳の部分は老後の就寝場所にも転用することを想定される方もいます。
また先ほども述べましたが、来客の就寝場所としてはとても使い易いです。
さらに畳スペースにこたつを置くと良さが倍増。冬の寒い時期にフラットな床でコタツに入りながらテレビを見たり、ご飯を食べたり。みんな集まってゴロゴロぬくぬくという冬の過ごし方は、日本人らしい団欒でほっこりします。
このように、「フローリング敷き洋風リビングの一部分だけ畳」という構造にもメリットがあるのです。
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4 リビングを和室にする際の注意点
リビングを和室にする際に、気にしておかなければいけないのがお金の問題です。
まず、洋風のリビングに比べ、導入するためのイニシャルコストについて。
フローリングは無垢と合板(複合)がありますが、普及品の合板フローリングより畳(普及価格帯)の方が割高になります。但し無垢フローリングの場合は畳と同等か畳より効果になる事が多いです。
また、メンテナンスにお金がかかります。
使い方にもよりますが、畳は通常5年程度使用すると表面の擦れや毛羽立ちが目立ち始めます。
そのため、畳の表面だけを張り替える「表替え」をしなければならなくなります。さらに、2回程度の表替えを経た後は畳そのものの交換も視野に入れなければならなくなります。
また、先ほど畳のメリットとして調湿性やクッション性を挙げましたが、逆にい草の隙間にホコリやダニがたまりやすくなってしまいます。
そのため畳を清潔に保とうすると、こまめな清掃と管理が必要になります。
但し最近は畳のバリエーションが非常に豊かになりました。何かをこぼしてもすぐ拭き取れる表材(樹脂や紙)、ダニが付きにくい畳床(スチレンボードやインシュレーションボード)など多彩なものがあります。但し、素材の組み合わせによって畳本来の踏み心地・触り心地も変わる事をご注意下さい。
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5 まとめ
リビングを和室にするかどうか悩んでいる方は、ご自身の生活スタイルから逆算して、どちらが向いているか考えてみましょう。
【和室リビングが向いているご家庭】
・和の雰囲気をこよなく愛し、畳の香りがたまらなく好きな方
・床面積に制限がある中で、効率良く空間を取りたいという方
・皆が寄り集まる空間として、家族の親密度を高めたい方
・書道をはじめ和の趣味を持たれ、合理的に生かしたい方
【和室リビングが向いていないご家庭】
・わんぱくな子供がいる家庭(畳がクッションとなり安全な一方で畳がすり減り維持費がかかる)
・ペットを飼っている方
・ソファなど洋家具を既に手持ちで、それを組み入れたい方
これから新たに家を建てようと考えている方、良いリビングライフを描いて下さい。