
昨今、都市部においては社会情勢、相続等の影響により土地が細分化され、需要と供給のバランスからか30坪程度に設定して売り出されるのをよく見かけます。
コンパクト過ぎず無理のない規模の住宅を考えた場合、一般的に30~40坪が一つの目安となることも多いのではないでしょうか。
若年世帯にとってみると、資金との兼ね合いで30坪の家を建てるという選択肢を選ぶということもあるでしょう。
また、団塊の世代が定年を迎え、第二の人生を考える時代が到来してしばらく経ち、これからを考えた夫婦2人の住まい、または一定の年代に達した若世帯との分離型二世帯住宅といった場合、世帯ごとに30坪台を目安として検討することも多くなっています。
さて、今30坪の間取りを考えようとしている方。ちょっと待ってください。
間取りよりも先に考えなければならないことがあるのです。
今回は平屋の30坪という広さにおいてどのように間取りを考えるべきかについてお伝えします。
間取りに悩んでいる方は後悔のないよう、ぜひ参考にしてみてください。
1.いきなり間取りを考えない
平屋は周囲の環境に恵まれているのであれば、ぜひ自由なプランニングを楽しんでいただきたいと思います。問題は、周囲を建物に囲まれている様な“都市型の場合”です。
いきなり間取りについて考えがちですが、まずは周辺環境に目を向ける必要があります。
以下では、平屋の間取りを考える際に注目したいポイントについてお伝えしていきます。
1-1.庭との関係を重視しよう
せっかくの平屋なので、地面(庭)との関係を重視したいところです。
庭というと「南側がいい」と思われる人が多いのではないでしょうか?
実は、必ずしも「南の庭」にこだわる必要はありません。
もちろん良い形で南に庭を作れるのであれば一番望ましいですが、そうした良い形で取れないケースが多いのが現実です。
そうした場合、「平屋」の特徴を活かす工夫をしてみましょう。
平屋は建物の背が低いからこそ、北側に陽の当たる庭を創れる可能性が十分あります。
また、もし北側道路なら、アプローチや駐車スペースを庭と一体的にデザインしてしまうことで、別々に分離するよりも豊かな敷地活用が期待できることもあります。
「でも北側だと陽差しが入らない暗い家になっちゃうよ!」という声が聞こえてきそうですが、次に“屋根“について検討してみます。
1−2.屋根(窓)を検討する
平屋は2階が載っていないため、屋根の自由度が高くなります。それはつまり天井の自由度も高いということです。
さらにいうと、天井の自由度が高いということは窓の自由度も高いということです。
例えば、屋根の形状を「段違い形状」にデザインすると、ハイサイド窓を設けることができます。またシンプルにトップライトという選択肢もあります。
こうした窓を取り入れることで北側であっても十分な自然光を取り入れることができ、暗くて困るといった心配はなくなるでしょう。
さらに、自然な風通しや断熱効果といった温熱環境制御(パッシブ)にも役立てることが可能になります。
注意点としては、窓が高所にあるので清掃が大変だということです。建物の背が低いと言っても、よじ登って拭き掃除するのは難しいでしょう。
ただ、ハシゴで登っても2階建てほど怖くない=メンテナンスし易い、というメリットとして考えることもできます。
「自分でやるのはちょっと…」と思われるのであれば、信頼できる建築会社に定期的な点検を任せれば安心です。2~3万円程度で年に1回、窓以外も含めて掃除屋さんに入ってもらっても良いでしょう。
1−3.周辺環境に目を向けよう
間取りについて直接触れてこなかったですが、ここで言いたいのは、いきなり間取りから考えるのではなく、周辺環境とのバランスに目を向け、豊かな空間配置を探してほしいということです。
無理に南側にこだわった結果、窮屈な南の庭を介して隣家の裏側を眺めて暮らすというのは果たして良い間取りと言えるでしょうか?
条件と手法によってはもっと豊かな環境が形成できるのです。
例えば、北側道路で北側アプローチという条件。一見あまり良くないと思われるかもしれませんね。
しかし、実はその敷地は西側に豊かさがあるという場合、落葉樹と一緒に適切な計画を行うことで、豊かな眺めと共に夏場の西日対策もできます。
こうした考えは2階建てだと簡単にいかず、平屋ならではと言えます。
ぜひ南側じゃないとダメと考えられている方がいれば、こうした周辺環境に目を向けることで広い視点を持つことが大切なのです。
2.家の内部について考える
周辺環境に目を向けたらようやく家の内部について考えます。
平屋の30坪は階段がないため意外と広さの余裕があります。
例えば別荘を考えた場合、玄関から居間へ直接入る計画で、居間を取り囲む様に各個室や水廻りを構成し、廊下を省略して各スペースにゆとりを生むプランがありますが、間取りの考え方の参考になります。
“間取り”を考えるにあたり、30坪という広さであれば3LDK程度まではゆとりを持って計画しやすく、個室の考え方次第では4LDKから何とか5LDKまで可能です。
平屋は屋根と天井の自由度が高いという事をお伝えしました。そうすると、居室を立体的に活用することも可能になってきます。
5LDKになると、そうした活用も視野にいれると良いでしょう。
ロフト空間などは若い世代に人気があります。就寝スペースにしてしまったり、採光の確保を兼ねる事もあります。立体的に考える分、平面的な床面積を抑えることができ、部屋数の増加に対応し易くなるのです。
間取りを考える上で、まずは居住者にとって最もくつろげる空間を重視し、起点とします。
多くの場合、「居間」あるいは「居間+食堂(+台所)」になるかと思います(ここではまとめて「パブリック」と呼びます)。
くつろげる空間は、できるだけ外部との関係も良好に配置したいところです。窓の外には何が見えるのか、周囲の建物との関係は大丈夫か、そういった部分まで気にかけるようにしましょう。
2−1.キッチンについて
特に女性は台所(キッチン)を重視される人が多いのではないでしょうか。
台所は3度の食事以外にも備えている機能は多く、食を通して家族が保たれる考え方は、多様化した現代においても普遍性を持っていると言えます。
台所は暮らしの中心を担っていると言っても過言でありません。
キッチンの形式として、「対面カウンター型」、「個別型」、「オープン型」、「アイランド型」の4つが一般的です。以下でそれぞれの特徴について説明していきます。
●対面カウンター型
「対面カウンター型」は現在最も人気がある形態です。
台所に立つ人とパブリックに居る人とのコミュニケーションが図り易く、家事を行いながらテレビを見る様な事も可能になります。
適度な連続感を持たせつつ、パブリックから台所内部が見えにくいというのも利点であるのが特徴です。
●個別型
台所は厨房、いわゆる作業場であることを前提とし、そこが見えてしまわない様にするのが主な考え方と思われます。
ただしこの場合、パブリックを隔てる壁に引戸の付いた対面カウンターを設けてTPOに応じて開閉する案や、両面から使えるカップボードで領域分けするというアレンジタイプもあります。
その場合、コストとの相談となります。
●オープン型
オープン型は壁付け型ともいい、最近では少なくなっています。
ダイニングの一角に壁を向いてキッチンセットを据えるタイプで、昔の公団スタイルという印象も強く、少し古いイメージもありますが、空間をコンパクトに納められる事がメリットと言えます。
一方、調理スペースにこだわりたい人が採用するケースも多いです。
真ん中に作業台を置き、それを取り囲むように厨房設備を配置すると、プロ並みの空間がデザインできます。
思い切ってキッチンセットを家具の一部の様に考えてしまうこともできます。
額縁デザインされた木製扉のキッチンを中心に家具も統一させると、欧風田舎スタイルやカントリースタイルにもなります。
業務用ステンレスキッチンなどと共にスチールラックやアンティーク加工された木製キャビネットなどを置けば、ハードなイメージのモダンスタイルに。
台所が一体化される分、空間にゆとりが生まれるため、それをパントリーなどに転用すれば収納量もアップします。
●アイランド型
アイランド型はかなりモダンなスタイルです。
部屋の真ん中にキッチンセットを置くかたちのため、基本的に最もスペースを要するスタイルと言えます。
ただし、リビングスペースを省略してダイニングを充実させたり、キッチンセットの対面側を食卓カウンターにするなど、合理的なプランも考えることができます。
2−2.動線の考え方について
台所が暮らしの中心的機能を担うとすれば、各部屋などへの動線がいかに機能的に確保できるかが重要な要素となります。
間取りを考えるとき、どうしてもリビングやキッチンの充実に目が行きがちですが、機能的な部分の棲み分けが考えられていると、生活してからのストレスが低くなるためこうした部分へ注目も必要です。
特に台所はパブリックに最も近接したプライベートな空間と言えます。
汚れやすく臭いも生じ、食材をはじめとしたストックからゴミまで多数の物に溢れており、できれば他人に見られたくないのではないでしょうか。
そのため、来客に分からない様に出入りができれば安心です。
パブリックに繋がる動線とは別にもう一経路確保できると、そうした心配が解消できます。これは俗に言う「裏動線」です。
例えば、玄関ホールや廊下に面してパブリック用と台所用の2つの出入口を並べるケース。
あるいは、マンションによくある間取りで、廊下から一歩入って台所脇を抜けるように奥のLDへ入るかたち。
この場合、台所は出入口を設けた壁で仕切られ、奥のリビングダイニングとはカウンター越しに対面します。
リビングダイニングよりも手前に台所を配することで裏をとれる。これもひとつの完成した間取りなのかもしれません。
機能動線は基本的に2つの方向から連携して検討すると良いでしょう。
1つ目は「内部動線」。
これは洗面脱衣室やユーティリティスペースとの関連が主で、「洗濯動線」とも言われます。
明快な領域分けと動線が確保できると、日頃の心理的負担を減らすことができます。また、空間を無駄なく配置することができれば設備配管類も合理的になる為、メンテナンスも行いやすいというメリットもあるのです。
もう1つは外部との繋がりである、いわゆる「お勝手動線」で、ゴミ出しのほか汚れ物、買い物、物干し場への動線などをいいます。
物干し場において洗濯物はパブリックから見えない方が美しく、周囲から見える部分への考慮が必要です。これは意外と全体構成に影響を与える要素にもなるので、あらかじめ考慮しておきましょう。
こうした動線との関係も考慮すると簡単にまとまらない事も多いかと思います。
そうした場合、屋外との中間領域の確保、トップライトをはじめとした窓の取りかた、格子やスクリーンを活用した相隣関係の調整など、様々な要素との連携も考慮しながら最も良い方法を見つけ出すようにしましょう。
・機能動線 [ 台所―ユーティリティ/パントリー(=勝手口)―洗面脱衣―ホール/廊下 ]
洗濯動線とお勝手動線、そこに収納を加え、それらを連携させた機能動線。
TPOに合わせた人の動きに基づき、効率の良い配置を考えてみてみましょう。きちんと領域分けしながら配置にぐるりと回遊性を持たせることで生活も楽になります。
スペースを取りやすい平屋であれば、そうした点にも注意した間取りができるでしょう。
2−3.寝室・個室について
寝室・個室は、特別な考え方がない限りプライベートな空間です。
個人的な時間を過ごす場所であり、個人的な所有物をしまっておく場所。
安心できる場所であり、機能的な要素も要求されます。
一般的な生活習慣に基づくと、「できれば」寝室にも朝日が入る窓が欲しいところです。
ただ、風通しについては良い配置を計画するようにしましょう。
今は換気設備の義務化によって空気の淀みに対する心配は少なくなりましたが、それでも季節によって自然の風が抜ける部屋は気持ちが良いもの。直接的な窓でなくとも、他の空間とを繋ぐ間仕切りを工夫したり、上下立体的に活用するアイデアもあります。
また、広さについても十分検討しましょう。
現在は布団よりベッドを用いる人が圧倒的に多くなっています。ですので、寝室を考えるときは “ベッドがちゃんと置ける部屋のかたち”を考慮する事は重要です。
ベッドの大きさをちゃんと考え、周囲を人が歩いても支障無く、収納扉を開けて物を出し入れするのに支障の無い空間を確保します。そうすると、2人部屋なら正味7.5帖、1人部屋なら正味4帖以上を確保できると、寝室としては問題ないでしょう。
1人部屋の場合は子供部屋か夫婦別室の片部屋である事が多いので、デスクスペースを要する場合もあります。これを踏まえると正味4帖はぎりぎりで、5帖程度欲しいところです。
これらについては必ずしも最低限の広さではありません。もっと突き詰めることは可能であり、立体的な活用によっては3帖程度でも問題ないこともあります。
2−4.収納について
最後に収納についてですが、これは十分な正味スペース(実際に収納可能なスペース)を確保できるよう、よく考えましょう。ここで注意したいのは、クローゼットの奥行き寸法です。
特に男性用の場合、冬物の厚手ジャンパー、ダウンジャケットなどは幅を取るため、内寸65㎝は確保したいところです。もし難しいければ、手前に引き出すハンガーを用いる方法もあります。
また、クローゼットの扉についてですが、手前の空間にゆとりが無い場合、開き戸より折れ戸、折れ戸より引戸の方が省スペースとなります。
ただし、引戸の場合、2枚または3枚の扉が重なって相応の厚みとなるため、収納内部の奥行きが狭くなってしまうことに注意が必要です。
なお、扉の価格については「折れ戸>開き戸>引戸」という傾向があるので予算に合わせて検討することも忘れないようにしましょう。
まとめ
30坪の平屋の間取りについてどのように考えれば良いかをお伝えしました。
重要なことは「いきなり間取りを考えない」ということです。
住まいの快適性というのは、好みの空間デザインや素材だけではなく、内外の関係性、内部相互の関係性の組立て方によって大きく左右されるのです。
間取りを考えるときは、ぜひ広い視点で引いて見るようにしましょう。